自然薯(ジネンジョ)とは?

 自然薯は山芋の仲間で、漢字のとおり山などに自然に生えています。自然薯はおいしくて栄養もあり、非常に優れた食材の一つだと思いますが、スーパーではほとんど見かけることもなく、一般にはあまり知られていないのかもしれません。

 “自然薯”の名を聞いたことはあっても、それがどういうものなのか、他の山芋類とどう違うのかなど、詳しいことはよくわからない、という方も多いのではないでしょうか。

 実際、山芋類にはいくつかのグループがあり、その呼び名も地域によって異なったりして、非常にわかりにくい状況です。他のウェブサイトを見ても、誤った記述も見られます。

 ここでは、自然薯についてのより正確な情報をお伝えすることにより、自然薯をより身近に感じていただくための1つのきっかけになればいいな、と思います。

山芋類の分類と自然薯

 “山芋”と聞いて多くの方が思い浮かべるのは、スーパーで売っている長芋や大和芋だと思います。自然薯もこの“山芋”の中に含まれます。

 他方で、自然薯のことだけを指して“山芋”ということもあります。カタカナで“ヤマノイモ”と書く場合は自然薯を指すのが通例なので、“山芋”と“ヤマノイモ”を同じように使っているのです。この辺りが混乱の一つの原因だと思います。

 ここでは、自然薯や長芋などいくつかのグループを含む山芋の仲間たちをまとめて“山芋類”と呼ぶことにします。

 

図1 山芋類の分類

 “山芋類”の中にはいくつかのグループがありますが、スーパー等で普通に見かけるのは、円筒形の長芋や大和芋、バチ形のいちょう芋(これも大和芋と呼ぶこともあります。)等で、少し高級なものでは球形のつくね芋(関西ではこちらが大和芋と呼ばれます。)があります。自然薯はめったに見かけません。

 さて、これら長芋、大和芋、いちょう芋、つくね芋、自然薯の中で、一つだけ仲間外れがあります。どれだと思いますか?

 答えは、自然薯です。なぜかと言うと、長芋、大和芋、いちょう芋、つくね芋は全て広義の長芋だからです。ここで言う“広義の長芋”とは、植物としての“ナガイモ”という“種(しゅ)”のことです。

 分かりにくいかもしれませんが、“ナガイモ”という1つの種の中に、長芋のグループ、大和芋のグループ、つくね芋のグループなどが含まれているということです(図1)。

 他方で、“自然薯”は、“ナガイモ”とは別の“ヤマノイモ”という種になります。つまり、それだけ自然薯は長芋類と一線を画す“別物”ということです。野生の自然薯を品種改良して長芋にしたわけではないんですね。

 余談ですが、“ヤムイモ”(または“ヤム”)という言葉を聞いたことがないでしょうか?“ヤムイモ”とは山芋の仲間の総称です(特に食用にするものを指して言うことが多いようです。)。ヤムイモと言うと熱帯産のイメージがありますが、自然薯や長芋もヤムイモに含まれます。英語では、自然薯をJapanese yam、長芋をChinese yamと言ったりします。なぜなら、自然薯は日本原産、長芋は中国原産と考えられているからです。ちなみに、図1で登場した大薯(ダイショ)は日本でも栽培されていますが、代表的な熱帯原産のヤムイモです。

自然薯はおいしいのか?

 分類の話を最初に書きましたが、実のところ「自然薯っておいしいの?」というのが本当に知りたいところではないでしょうか。

 「味の好みは人それぞれなので…」と、当たり障りのないことを書いても何の参考にもならないので、個人的な好みに基づいて書くと、「自然薯はうまい!」です。ただし、「良質なものは」という条件が付きますが。

 自然薯の味はピンからキリまであり、非常にばらつきが大きいのです。おいしいものはおいしいし、おいしくないものはおいしくない。それが、今売られている自然薯の現状です。おいしくない自然薯を食べて「自然薯ってこんなものか…」と思われるのは残念でなりません。自然薯は信頼できる所から買いましょう。(自然薯の味のばらつきや、おいしいものとおいしくないものの違いについては、こちらをご覧ください。>>味へのこだわり

 ここでは、主に長芋類との違いを中心に、食べ物としての自然薯の特徴を紹介していきます。


粘り

 自然薯と言えば強い粘り、というイメージがあるほど、自然薯の味において粘りは重視される要素です。自然薯の中でも、モノによって粘りの強弱はありますが、長芋類よりは粘りが強いのが普通です。すりおろした自然薯は塊のまま箸で持ち上がります。また、良質な自然薯にはコシや弾力があります。餅に例えられることも多いですね。

 ただ、粘りの質は、やはりモノによってマチマチです。ぽってりとしてまとまりは良いものの箸で簡単にちぎれるものもあれば、良く伸びてちぎれないものもあります。自然薯は乾燥に弱く、同じ芋でも乾燥してくると粘りが弱くなる傾向があります。また、1本の自然薯でも、部位によって粘りの強さは違っていて、芋の先端付近(切口ではない側)では比較的粘りが弱い傾向にあります。

 ちなみに、自然薯と言えば粘りの強さばかりがアピールされがちですが、粘りが強ければ強いほどおいしいかというと、一概にそうとも言えません(この点については好みがあると思いますが。)。

 

風味・香り

 自然薯の味を語る上で粘りほど重視されてはいないようですが、風味や香りはその自然薯の味を特徴付ける極めて重要な要素だと思っています。自然薯の風味や香りは、強いか弱いかということだけではなく、全く異質な風味があるものがあるからです。泥臭い、というのはよくあるようで(私が買った中にもありました。)、中にはキノコのような匂いがするものもありました。

 質の良い自然薯の風味や香りは長芋類のそれらとは全く異なっていて、非常に洗練された感じがあります。それが自然薯の大きな魅力の一つなのですが、具体的にどういうものかを言葉で表すだけの文章力が私に無いのが悔やまれるところです。

 

コク・旨味・甘味

 

 

肉質・食感

 自然薯の肉質は緻密でキメ細かいのが特長です。すりおろすときの感触やすりおろさずに食べたときの食感は、モノによって幅があります。すりおろすときに妙に硬い感じがするものがありますが、粘りの強さとは関係ありません。ただ、全体的には、すりおろさずに生のまま食べるとサクサクとした軽い食感が楽しめます。

 

アク(褐変)

 自然薯を切ったときやすりおろした後、時間が経つと色が黒っぽく変色してくることがあります。これがいわゆる“アク”です。ちなみに「自然薯はアクが強いものだ。」というのは間違いです。品種によってアクの出やすいものやそうでないものもあるでしょうが、アクが出てしまうのは取扱い上の問題が多いと思います。

 自然薯は早い時期(10月〜11月頃)に掘るとアクが出やすく、暖かい所に置いておいてもアクが出やすくなります。また、傷口の近くや傷み始めたところにもアクが出やすくなります。早い時期に掘ったものを暖かい店内に長期間出しておけば、アクが出てしまうことが多くなります。アクの強い自然薯は、見た目が悪いだけでなく、えぐみがあっておいしくありません。買った自然薯はすぐに冷蔵庫に入れて、なるべく早めに食べ切りましょう。(アクがでてしまった自然薯の食べ方についてはこちらをご覧ください。>>自然薯料理のワンポイント

 ちなみに自然薯のアクは酸化したポリフェノール類と考えられています。自然薯に含まれているポリフェノールが空気に触れると、ポリフェノール酸化酵素の働きで酸化して色が出るのです。ポリフェノールというと体に良さそうですが、既に酸化したポリフェノールに抗酸化作用を期待できるのか(人間の体内で再び還元されてリサイクルされるのか)はわかりません。

 

天然物と栽培物

 自然薯は本来山野に自生しているものですが、最近は畑で栽培された自然薯も多く出回っています。栽培にはパイプや袋状、または樋状の栽培容器を使用することが多く、こうした容器で栽培された自然薯は比較的まっすぐで特徴的な形をしています。

 天然の自然薯と栽培された自然薯、どちらがおいしいか?というのは気になるところですが、一概には言えません。私も子供の頃はよく山で自然薯掘りをしましたが、とてもおいしいものがある一方、そうでもないものもありました。天然の物は遺伝的なばらつきが大きく、土質や養水分などの生育条件も土地ごとに異なることを考えれば当然の話ですよね。栽培物の中には質の悪いものも含まれていることもあり、全体的な傾向としては天然物の方がおいしいのだと思いますが(私も全体のことを熟知しているわけではないので推測ですが。)、個々の自然薯で考えると、天然物より栽培物の方がおいしかった、ということもあり得るのです。

 私個人の経験からすると、天然物は掘り取るのも大変ですが形が不規則で調理しにくかったり、分岐や変形しているところや傷が付いたところからアクが出やすいということもあって、なかなか自分で山から掘ってきて食べようという気にはなりません(私がズボラなだけで、天然物の価値を否定するわけではありません。念のため。)。子供の頃は食べることより掘ることが楽しくて掘ってはいましたが、あの頃の元気はどこへやら…という寂しい状況です。私以外にも昔は山芋掘りが結構いて、誰かが掘った穴があちこちにありましたが(ちゃんと埋め戻してほしいのですが)、最近はそんなことも無くなりました。天然の自然薯は今後ますます希少なものになっていくのかもしれませんね。

 

 

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